店員さん;「お客様もスカート、お好きなんですか?」
僕;「はい、僕、スカート好きなんです・・・。驚かれるかもしれませんが・・・すみ
ません・・・」
やった。遂に言ってしまった。スカートを好きと言ってしまった。これからこの店員さ
んはどのような態度で接客するのだろうか?
店員さん;「いいえ、驚きませんよ。」
僕;「でも、僕は男なんで、スカートが履けないから、パンツでと思って。」
店員さん;「あら、そんなことないですよ。今、男性でもスカート履かれている方、多
くなってきていますよ。」
僕;「えっ!、そうなんですか?」
店員さん;「はい、そうですよ。先月もいらっしゃいましたし。
ですから、一度このスカート、見るだけでも見られませんか?今、同じものが何点か、
色違いでありますし。」
僕;「そうですね・・・。そうですよね。僕、ボトムは軽いほうがいいんです。」
店員さん;「あら、そうなんですか? それなら、絶対スカートですよ!!」
僕;「やっぱり、そうですか?」
店員さん;「勿論、そうですよ。パンツよりスカートのほうがずいぶん軽いですよ。」
予想外の展開になってきた。店員さんは僕のスカート好みを意外に、肯定的に受け止め
てくれた。この時、確かに緊張は続くものの、何かスーっと力が抜け、かなり、気分が
楽になった。
僕はそのまま店員さんの誘導に沿って、簡単にスカート・コーナー移動できた。何か、
今まで緊張して作戦を立てていたことが、バカみたいに感じた。
「なんか、こんな感じなら、もっと早く言えばよかった〜。変に緊張して損したって感
じだ。」
僕は内心そう思った。そして思った。
「いい感じだ。この店員さんとこのまま、スカートを一緒に見れるかも。この感じだと
僕が使うといっても、嫌な顔せずに親切にしてくれるかも。しかも、色々沢山見て、自
分が気に入ったスカートが買えそうだ。いい人に当たったかも。」
僕はついさっきまでの不安感が、少し期待感に移っていくのがわかった。そして、目の
前はいつの間にか沢山のスカートが吊られている光景となった。
「あっ、遂にスカート・コーナーだ。先週、チャレンジしたけど、途中でくじけていけ
なかったスカート・コーナーだ。でも、やっぱり緊張する。」
僕は緊張しながらも変に嬉しくなってきた。
目の前に沢山のスカートが吊らされている。薄いピンク、茶、ベージュ、黒、白、柄物
・・・。
「やったぁ〜。スカートだぁ。」
でも全部、横向けに吊らされているので、良くわからない。やはり、良く見るためには
ハンガーからとって、正面から見ないとわからない。
店員さんはその僕の気持ちを察したのか、横からさっきのスカートを手際よく出してく
れた。
店員;「はい、これが今、私が使っているスカートです。」
といって、その沢山のハンガーにつるされたスカートの中から、白いスカートを簡単に
スッと取り出して、ハンガーの柄を90度回転させ、ハンガー吊りにスカートが正面で見
えるように掛けた。
一瞬、僕の目はその白いスカートに集中したためか、目の前が真っ白になった。
スカートの色は白で、やや細かいプリーツが入っていて、裾にレースが出ている。又ウ
エスト部分はサテン調の光沢のあるリボン・ベルトになっている。その、サテン調のリ
ボン・ベルトが変に、まぶしく、そして綺麗に写った。
僕;「あっ、確かに店員さんのものと同じものだ。目の前でみるとより綺麗だなぁ〜」
僕は緊張しながら右手でスカートの表地の右端中央部分を軽くつまんでみた。
ふわっとした感触が僕の親指と人差し指や中指に伝わってきた。そして外観は薄そう
に見えても、実際に掴んでみると、意外とふわっとそして厚く感じた。
僕;「この生地、凄く軽いんですね〜」
店員さん;「はい。これが今流行のシフォン・スカートです。今、求められる方多いで
すよ。先日も他のお客様で求められていきましたからね。」
僕;「あ、やっぱり自分がいいと思っているのは他の人もそう思っているんだな。皆お
んなじなのかな」
店員さん;「そうですね。そうかもしれませんね(笑い)。」
僕;「あっ、このような生地をシフォンというんですか?」
店員さん:「はい、やっぱり春はシフォン素材が多くなる季節ですね。」
僕;「さっきの、パンツより軽そうですね」
店員;「はい、麻よりもシフォンのほうが軽いし、スカートのほうがパンツより使って
いる生地も少ないですから。」
僕;「だから、ふわゆれするんですね。ということは『ふわゆれスカート』ってシフォ
ンが多いんですか?」
店員さん;「そうですね。シフォンばっかりとは限りませんが、シフォン素材は多いほ
うに入ります。」
つくりをみるとシフォン素材の裏にサテンの生地が裏地としてついており、その裾には
レースがついていた。その裏地は特にふわゆれすることはなく、形もタイト・スカート
って感じだ。表地は横に広がりふりふり感が出るようなつくりになっている。つまり、
フレアースカートとタイトスカートの二重スカートって感じだった。僕はそのスカート
を見ながら、内心思った。
「これは僕がほしかったものとバッチリあっている。とりあえずゲットだな。」
僕;「すみません。このスカート、色はどんなのがありますか?」
店員さん;「はい、この白のほかにベージュと紺があります。お出ししましょうか?」
僕;「はい、すみません。お願いします。」
店員さん;「はい、黒はここにありますね。」
といって、そのすぐ横から同じタイプの黒を出してきた。
店員さん;「えっと、それとべージュがあったはずですが・・・。すみません。ここに
はないみたいなので、ちょっと待ってくださいね。裏をみてきますから。
あっ、それからサイズは何号がよろしいですか?」
僕;「多分、9号でいいかなって思います。以前、11号を買ったのですが、大きかったん
で。でも、7号はどうみても小さすぎると思うんです。」
店員さん;「わかりました。9号サイズですね。少々お待ちください。すぐご用意して参
ります。」
といって、店員さんはお店の左に角あるレジコーナーの奥にある勝手口みたいなところ
に入っていった。
そして僕はここ、つまり婦人服売り場に一人残された。
「あっ、一人になっちゃった。婦人服売り場に男一人、周りは見ているよね・・・
ひょっとして注目度100%? 早く店員さん帰ってこないかな。他のお客さんは来ないよ
ね。」
と思うと又顔が赤くなってきたことに気がついた。
「ちょっと恥ずかしいな。今、婦人服売り場のスカート・コーナーの正面で真っ赤な顔を
していると思う。非常に恥ずかしいよ。とにかくこの店の売り場以外の人に顔を見られな
いようにしなくちゃ。」
と思い、僕は先ほどのパンツ・コーナーに戻って他のパンツに眼を移した。
「こうしていれば、店の外からは男がいるということはわかっていても、顔を見られるこ
とはないはずだ。又一般の女性客もさっきのように僕がボ〜として立っているよりは不審
に思わないはずだ。」
僕はパンツを2,3点見ている最中に少し落ち着いてきた。
「あ、意外と格好のよいパンツがあるなぁ、さっきは頭の中がスカートしてたので、見て
るようで殆どみていなかったけど、良くみるとこれ結構いいなぁ・・・
あっ、ベルボトムタイプだ。このジーンズのやつ、ず〜と欲しかったんだよな。ジーン
ズじゃないけど、ひょっとしてベルボトムは婦人用においてあるかもしれない。紳士用は
今、ないもんなぁ〜。となると、パンツも婦人用の専門店に行けば、僕の欲しいものがあ
るかもしれない。
お、これはサイケデリック調、サイケデリックにしてはややおとなしめだけど、これも
僕の好みだな。・・・でも、これはダメだな。レースが付いている。
・
う〜ん。これは意外な発見だよね。形やデザインは婦人用のほうが圧倒的に多いから、
当然といえば当然かもしれないけど。婦人服の専門店ってその数が数え切れないくらいあ
るので、婦人用のパンツ専門店も当然あるだろうし、そうするとそこには僕の好みのパン
ツがある可能性十分だよね。又生地も柔らかめも多いのでいいかも。この店はどちらかと
いうと女の子らしいふりふり系みたいだ。パンツ専門店まで行かなくても、同じ婦人用で
ボーイッシュ系だったら普段着として僕が使用できるもの、僕の気に入ったものがおいて
いるかもね。
よし、そしたら今日、この後にそのようなお店を探してみよう。
しかし・・・この広い店内数え切れないくらいの婦人服の店がある。その系統の店を探す
のは大変だな。何か気の遠くなりそうな感じだ。」
僕はその時振り返り、店内の広い広場全体を見回した。
「でも、それがショッピングの楽しさかもしれない、色んな店に入って探していると、今
回みたいに思わぬ良いものが出てくるかもよ。
そっか〜。女の人がショッピングに夢中になる気持ちがわかってきたな。男物も女物と同
様種類が豊富ならこんなもっとショッピングが楽しくなるかも。」
そんなことを考えていたら少し気分が落ち着いてきた。そして又パンツ・コーナーに目を
移した。
店員さん;「お待たせしました」
店員さんの声がした。僕はそれを聞いてさらに落ち着いてきた。
店員さん;「すみません、ちょっと見つからずにお待たせしまして。」
僕;「い〜え、いいんですよ。それより店員さんにお手数をおかけしてすみません。」
店員さん;「とんでもございません。店内に在庫を切らせてすみません。お待たせしまし
た。これがベージュになります。」
といってベージュ色を出してくれた。
僕;「少しおとなしい感じの色ですね。」
店員さん;「そうですね。同じベージュでもややダーク系のおとなしめの色となっていま
す。でも形はさっきの白や黒と同じですから。」
といいながら白、黒、ベージュの3点をガラス台の上においてくれた。
3点をこうやって見比べるとさらに良くわかる。
・白;華やかで明るい。裾から出てるレースが特にはえて、春らしい軽やかさを感じる。
このスカートを履いて、春風を感じると自分までが春風になった気になりそうだ。
・黒;白く比べると対照的でシットリとしてダークだ。白と比べると大人の色って感じが
する。白が女性なら黒は男性って感じだ。でもおかしい。スカートは女性しかはかないの
にこの黒のスカートが男性っぽく感じるなんて。
・ベージュ;う〜ん。やっぱり無難といえば無難。一番目立たない色かな。ベージュを選
ぶ女性は多いみたいだけど、ちょっと僕とは合わないのかな。
店員さん;「いかがですか?」
僕;「はい、ベージュはせっかく持ってきていただいたのに悪いのですが、僕の好みには
少しはずれているみたいです。」
店員さん;「いえ、いいんですよ。そしたら白か黒ですか?」
僕;「はい、黒も大人っぽくていいですよね。何か迷いますよね。どちらがいいのかな」
店員さん;「そうですね・・・。上にあわせるトップスと考えると又変わってきますよ。」
そういって、店員さんは上着を持ってきた。
店員さん;「はい、このようなノースリーブと組み合わせるとこんな感じになります。こ
れは白と組み合わせた場合ですが・・・」
店員さんの持ってきたトップスはノースリーブのベストで生地は全体的に薄い青、中央に
は白いボタンが7個くらいついていて、その左右に白いフリルが二重に縦についている。
そして内側のフリルの先には白の細かいレースが付いている。
又白のレースはノースリーブの裾全体にも付いていて、いわゆるふりふり系のノースリ
ーブといった感じだ。色は全体が薄い青色だが、フリル、レースが白なので確かにこの白
のスカートとよく似合いそうだ。