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松田探偵事務所
- 困った面々 -
Stage4
9P
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寺田さんの愛人の家にとうとう突入だ。
ボスは彼女の豪華なマンションのエントランスにどかどか入っていく。そして、躊躇なく
インターフォンで彼女の部屋の番号を押す。
「クラブ レッドローズのリリーさんのお宅ですよね?」
「だれ?」
彼女はリリーさんという名前だったんだとボスの言葉で知る。百合という意味の綺麗な名
前をつけているのに、インターフォンから聞こえてきたのは、恐ろしいほど無愛想な声だ
った。

「買い取っていただきたい写真があるんですけど?」
ボスは訪問者を写すカメラに一眼レフのデジタルカメラをかざしている。

そんなんで開ける人がいるわけないと思っていたが、予想外にすぐに開いた。
「入って」

「なんでですか?」
僕が小声でボスに尋ねる。
「脛に傷がたくさんあるからじゃないの? しかも、今日はいかつい兄ちゃんが一緒だか
ら、いっそのこと暴力でとか思っているんじゃないかな?」
物騒な答えが返ってきた。
「あ、危ないじゃないですか?」
恐る恐る聞くと
「まぁ、大丈夫。大丈夫」
ボスは僕の心配なんか気にもせず、前に進む。

暴力って言葉を聴いて、腰が引けている僕とは大違いで、ボスは悠然と前を歩いている。
ボスがさっき、勝負時にはやっぱり赤だろうと渡してくれた、真っ赤なジャケットのすそ
をぎゅっと握り締める。

彼女の部屋の前に着き、またインターフォンを押す
「あんたか、さっき画像を送ってきたの?」
「よく取れていたでしょう? とりあえず、中に入れてくださいよ。ここで声高に話して
もいいなら別ですけど」
「ちっ! まぁ、入りな」
ドアの施錠が自動的に開く音が、静かな廊下に響く。そして、ドアが勢いよく開き、出て
きたのは、さっき僕がカメラ越しに覗いていたリリーさんだった。リリーさんは思ってい
たよりも大きくて、悔しいことに僕より少し背が高かった。このごろの女の人は背が高い
人が多いなって、この場に似合わないのんきなことを少し考えてしまった。

リリーさんの部屋に入れてもらい、リビングに通される。さっきまでファインダー越しに
見ていたところだ。
寺田さんもいかつい男性もいない。リビングに来るまでの、廊下は結構長くて、ドアが左
右に3つほどあった。2つはトイレとお風呂だとしても、最低もう1つ部屋がある。その部屋
にでもいるのだろうか?

リビングに着くなり、リリーさんは急に振り向いて、
「で、あんたらいくら欲しいの?」
と静かだけど、ドスのきいた声で聞いた。
「単刀直入ですね〜。お茶くらい出してくれてもいいんじゃないですか?」
「世間話でもしろっていうの、バカじゃない! 早く話を済ませたいのよ」
リリーさんは相当いらだっているようだ。

ボスはそんなリリーさんにお構いなしに、指を一本突きつけた。
「100万ってわけ、馬鹿言ってるんじゃないわよ。なんで、あんな写真にそんな金額が出
せるわけないじゃない」
リリーさんは僕らをバカにした顔をして履き捨てるように言った。初めてまじかで見たリ
リーさんは、顔の造り自体は確かに綺麗かも知れないが、キツイ性格が顔に出てしまって
いて、綺麗というより怖い顔だ。

「仕方ありませんね。それではこの写真は、寺田さんの奥様にお送りするしかないですね」
「…ちょっとやめてよ」
リリーさんは動揺したのか、さっきより少し声のトーンを抑えて、訴えた。

「いろいろと調べさせていただきましたからね」
にっこりとボスが笑う。
「どうせ寺田さんに『2人のことを奥さんにばらすわよ』とか言って、ゆするつもりだっ
たんでしょ? あなたは過去にも何人もそうやって、男の人をゆすってきてますよね?」
そんなきわどい発言をボスは笑顔で言った。でもその笑顔はさっきの笑顔とは違う。むし
ろリリーさんや、いかついお兄さんがしそうなニヤリという表現が似合いそうな笑顔で、
僕は背筋がゾクリとした。

その笑みに同じ匂いを感じ取ったか、リリーさんの態度はより砕けた感じになり、
「へぁ、私の過去も調べてきているわけ? そうよ。私は寺田をゆするために近づいた。
その私がなんで、あんたみたいなやつにゆすられなきゃいけないわけ、あ〜マジむかつく」
怒りに震えているのか全身がプルプル小刻みに震えている。
「あなたが寺田さんをいくらでゆするつもりだったかは知りませんが、1本というわけで
はないでしょう。それをダメにしてしまうとはね」
リリーさんの顔色が変わった。ボスとリリーさんは見つめあっている。
あまりの緊張感に僕は息をするのを忘れそうだ。

「分かったわ。払えばいいんでしょ」
リリーさんがため息をつきながら、ボスの顔を見る。
「ええ、わかってもらえればいいんですよ」
ボスがさっきのニヤリ顔で笑う。
「じゃあ、そこで待ってて」

リリーさんは立ったままの僕らをそのままにして、リビングから出て行った。
ボスは勝手にソファーにどかっと座っている。僕はその横にちょこんと座る。

なかなか戻ってこない。他の部屋で何をしているんだろう。ボスは僕の横で悠然としてい
る。僕はボスの考えていることが分からなくって、ドキドキしている。本当にお金をゆす
るつもりなのかな?

リリーさんが戻ってきた。…でも手ぶらだ。
「おや、お金を持っていないようですが?」
ボスはそうなることが分かっていたのか、淡々とした口調で聞いた。
すると
「私はどうせ、寺田から500万は最低でも引き出すつもりだから、100万くらいいいかと思
うんだけど、裕也がダメだって言うから払えないや、ごめんね」
笑顔で言うと、そのタイミングを待っていたのか、先ほどファインダー越しで見たいかつ
い男がドアから入ってきた。

僕の足くらいありそうな太い腕にリリーさんは寄りかかりながら、
「ケガしたくなかったら、写真のネガや画像データ消去して、うちらに2度と関わらないっ
て約束して、帰ってくれない?」
男が出てきたせいで、前よりもっと強気になっている。
男のほうは、リリーさんに腕を絡めながら、指をポキポキ鳴らしている。
こんな定番シーンの動きながら、その音の大きさにびびってしまう。
僕はケンカなんか今まで一度もしたことが無いし、こんなに近くで見たこともない。
目の前の男は、ものすごくケンカ慣れして強そうだ。僕はもう逃げ出したくて仕方ない。
横のボスの顔をうかがうと、ボスは男が出てくるのを予想したいたのだろうか、平然と男
を見ている。

男がこちらに向かい、一歩ずつ歩きながら
「俺ら相手にゆすろうなんて、いい度胸してるじゃねぇかよ。ケガする前にコイツの言う
こと聞いて、とっとと帰ったほうがいいんじゃねぇのか、おら!」
と怒鳴ってくる。
その男に対して、ボスは
「これは暴力で解決ってことですかね?」
平然と言葉を投げかける。
男とボスは、腕を伸ばせばすぐに届く距離まで近づいた。
「はぁ、何生意気なこと言ってんだよ、おっさん。お前今自分の置かれている立場分かっ
てるの?」
リリーさんが後ろのほうで
「裕也、やっちゃえ〜」
と陽気に応援している。

「分かっているつもりですが、今、私はあなたに暴力を振るおうかと脅しをかけられてい
る状況です」
ボスはさらに平然と言葉をつなげながら、ゆっくりと立ち上がる。
「俺、ボクシングでいいトコまでいったんだぜ、俺のパンチが当たったら、おっさんなん
か死んじまうかもな」
嫌な笑顔を浮かべながら、シュシュと小さなパンチをボスに見せつける。

そんな男の挑発に、ボスは何も言わず、薄い笑顔を浮かべながら、手を前に出し、「カム
カム」と折り曲げるポーズをする。

その悠然とした態度に男が、急にボスに襲いかかってきた。
戦いのゴングがなった。

ボスめがけて男は右ストレートを出す。シュッと風を切る音がするくらい早いパンチだ。

ボスはそのパンチをちょっと左にずれることで受け流す。男は避けられるとは思っていな
かったので、一瞬きょとんとした顔をしたが、避けられたことがプライドを刺激したんだ
ろう。その後は、右、左とボスに連打を浴びせようと突進する。

ボスはボクシングをやっていたのだろうか、狭いリビングで円を描くように軽いフットワ
ークで体を左右に振って避ける。その姿はまるで優雅にダンスを踊っているようにも見え
る。

そんな戦いの最中、僕は急に始まった戦いに呆然としてしまって、動けない。ただ、目の
前に起きていることを見続けることしか出来なかった。

時間としては2分も経っていないだろう。
男は連打の途中でちょっと立ち止まってハァハァと肩で息をしているが、ボスは息も乱さ
ず男を見ている。

その場の雰囲気が徐々に変わってきて、流れがボスのほうに傾いている。この戦いボスが
勝つと確信した瞬間。
僕の後ろに人の気配を感じ、首に細い腕が絡みつく。

「裕也、ちょっと何してんのよ。そんなおっさん早くやっつけちゃいなさいよ。 おっさ
ん、あんたも何ちょろまか動いてんのよ。あんたが一緒に連れてきたこの女の顔、これで
ズタズタにしちゃってもいいんだよ」
僕の後ろからリリーさんの声がする。状況が全く掴めない。この女って誰だろう…僕だ。
僕は尾行のままだから女の子の格好をしている。そのことをスッカリ忘れていしまうくら
い、僕は緊張していた。
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