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> 松田探偵事務所 -困った面々- Stage3(8P)
松田探偵事務所
- 困った面々 -
Stage3
8P
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「あの」
店員さんを呼んでみる。声をちょっと高くしてみた。何とか裏返った声にはならなかったよかった。
「これを」
飲み物を指差して注文するだけなのに、とっても緊張した。
寺田さんの待ち人はまだ来ないようだ。
ボスからすぐにそちらに向かうとのメール。早く来て欲しい。
寺田さんの様子を観察すると、どうやら手帖を開いたり閉じたり、携帯をパカパカしているようだ。ちょっとイライラしている気がする。
周りの気にするのか、ときたまキョロキョロするので、ばれるのではないかとヒヤヒヤする。
喫茶店に入ってから、30分くらいたっただろうか、寺田さんのもとに一人の女性がやってきた。ボスはまだ来ない。
相手の女性は、僕より少し上くらいのなかなか派手な格好をした女性だった。寺田さんは女性が来るなり、伝票を持って席を立とうとするが、女性は寺田さんの向かいの席に座ってしまう。水を運んできた店員さんにすかさず注文をしているみたいだ。寺田さんは渋々席に座りなおす。
寺田さんが席を立とうとしたときは正直焦った。若い女性と喫茶店でお茶している写真だけでは、不倫現場写真とはならないから、ホテルなり、彼女の部屋なりに行ってもらわなきゃ行けないのだけど、ボスが来る前に動かれても困る。
寺田さんと女性の声が喫茶店の音楽にかき消されながら途切れ途切れで聞こえてくる。
「奥さんに・・・」
「困る。何を考えて・・・」
「あなた勝手ね」
「お前こそ、出るぞ」
彼女が不倫の相手かどうかはまだ、判断がつかないけど、どうやら寺田さんと関係はあり、モメている真っ最中のようだ。寺田さんは何とか、席を立とうとするが、女性がかたくなに席を立とうとしない。話は平行線を辿っているのだろう。
ボスからメールが来た
「そばまで来た。顔がばれている俺はさすがに店内には入れないので、外で待機している。二人の様子を逐一報告してくれ」
なんとか寺田さんたちが動くまでに来てくれた。心強い。
僕は寺田さんたちから聞こえてくる会話を、聞き逃さないようにし、ボスに報告をした。特に、ボスから女性の特徴を細かく報告するようにと指示が来たので、髪形や服装から口調など気がついたところをすべてメールした。
寺田さんたちが喫茶店に入ってから、1時間ほど経っていた。まだ二人は険悪な雰囲気のままだったが、急に女性が席を立つと、慌てて寺田さんも後を追い始めた。
僕も慌てて席を立って、二人を追いかける。するとキャッシヤところで寺田さんがお会計をしているところだった。
しまった、ニアミスだ。
急に立ったから、僕も慌てて後を追ってしまった。少し間を空けるのがセオリーだったのに。
渋々、会計をすることにして、寺田さんの後ろに立って待つ、焦っている寺田さんは僕のことを一瞥しなかった。良かった。
会計を済ませる寺田さんを待たずに、彼女はスタスタと大通りへと歩いている。寺田さんは会計終了後、すぐにその後を追っていく。僕も急いで会計を済ませた。でも、さっきみたいにすぐに追いかけてはいけないと、少し深呼吸をして、後を付け始める。
寺田さんは走って彼女に追いつくと、何かを必死に話しかけている。しかし、彼女は聞く耳持たないのか、寺田さんを無視する形でスタスタと歩いていき、タクシーを拾った。
彼女たちを乗せたタクシーはどんどん離れていく。僕もタクシーを捕まえなければと、必死に探すが、運が悪くタクシーが捕まらない。
「真くん」
急に呼ばれて、振り向くとタクシーに乗ったボスがやってきた。
「早く乗って」
「ボス」
タクシーに飛び乗って、彼女たちの車の後を追う。
「ありがとうございます」
「いや、いいよ。それよりもなんか雲行きが怪しくなってきたね〜」
「えっ!」
「いや〜、寺田なんだけどね。あいつの性格からいって、女に会うときに喫茶店なんて人目につくところを利用するわけがないんだよ」
「はい」
「しかも、なんか女ともめている風なんだろう」
「はい」
「これは、なんか違うことが起きるかも知れないね〜。面白くなってきたね〜」
「ボス?」
「だって、不倫現場の写真を取るだけの仕事なんて、面白くないでしょ。探偵って看板を掲げているなら、それなりに事件が起きてくれなきゃ」
ボス、なんかウキウキしている。この人がまた分からなくなってきた。
寺田さんたちを乗せたタクシーは、豪華なマンションの前で止まる。
僕たちはセキュリティ完備のマンションなので、用意に近づけない。
マンション近くでタクシーを降ろしてもらう。すると、ボスはマンションの向かいのビルを見回し、1つのビルに勝手に入っていってしまう。
「ボス」
僕は慌ててながら、後を追いかける。
「真君。君はラッキーだね〜。こんなに写真を取りやすいロケーションはめったにないよ。尾行初めての真君に対して幸運の女神が微笑んだのかな」
「ボス。勝手にビルに入っちゃダメですよ」
「そういった常識にとらわれたら、探偵なんてやっていけないよ」
探偵やっていかないからいいんです。とも思ったけど、今のボスに何を言っても無駄だと思い、だまって付いていく。
屋上の入り口まで来たけど、どうやら鍵がかかっているようだ。
「ボス、諦めてマンションの前で二人が出てくるのを待っていましょう」
「う〜ん。マンション〜出てくる二人って言うのもいいんだけど、ちょっと不倫してますって感じ薄くないかな。出来れば現場を押さえたいんだよね〜。ここの屋上からだったら、マンションの部屋の中とれそうだしね」
と言いながら、どこから用意したのか、ヘアピンみたいなので、鍵をいじり、スルリと開けてしまった。
「すごい!」
「そう見えないかも知れないけど、これでも探偵だよ。これぐらいはできるよ」
屋上に入ると、ボスは僕のことなんてすっかり忘れて、良いポジションを探し、どこの部屋に入っているかを探すのに夢中になっている。
「!真君。寺田たちの部屋がわかったよ」
「どこらへんですか」
「3階の一番右の部屋。リビングで二人で話しているようだ。ただ、残念なのは、ここからじゃ、ベッドルームは見えないんだよ」
「当たり前じゃないですか!」
「俺は決定的って瞬間がとりたいの」
「部屋に二人でいるっていうのでいいのでは?」
「う〜ん。リビングでいちゃいちゃしてくれないかな〜」
「ボス!」
「はいはい。そうだね。とりあえずサクッと撮っちゃおうかね」
ボスはデジタルの一眼レフで部屋にいる二人を撮っていた。
ボスはカメラ越しだから、二人の様子が見えるけど、肉眼の僕には全く見えない。カメラが動く音だけが、二人の間でした。
「はい、一応抑えの絵は取りました。後はいちゃいちゃ待ちかな」
ボスはカメラをずっと構えたままの姿勢で、僕はどうしたら良いか分からないまま、身を隠して待っていた。
20分くらい経ったのだろうか、この状況に少しなれてきた。
「真君。二人なんかケンカしているみたいだね。ちょっと見てみる?」
「はい」
ボスがカメラを僕に貸してくれた。そのままファインダーを覗き込むと、思ったよりも大きく、寺田さんたちの姿を見ることができた。
二人はリビングで、激しい口論をしているようだ。寺田さんも彼女も立ち上がって、怖い顔で言い争っている。
「一応。この現場も絵は押さえておいたけど、なんなんだろうね〜?」
「さぁ〜。なんなんでしょうね?」
僕たちはただ、寺田さんたちの口論している様をずっと見ていた。
ボスの携帯のバイブが振るえた。
「おう!日和ちゃんか、どうわかった?」
日和さんからのようだ。
日和さんもこの時間まで仕事か〜。大変だな〜。
なんて思いながらファインダーを覗いていたら、急に彼女が枠の中からいなくなった。そして、しばらくすると、大きないかつい男性と一緒に戻ってきた! 来客を告げるチャイムがなって、迎えに行ったんだ。
僕はあまりにも驚いてしまって、声が出なくなってしまい。電話中のボスを叩き、カメラを渡した。
僕の異変にすぐに気がついたボスは、カメラのファインダーを寺田さんたちのいる部屋にすぐに合わせる。
そして、携帯で電話中の日和さんに対して
「日和ちゃん。ありがと。ビンゴだったよ。今ちょうどイカツイ兄さんが女の部屋に入ってきた。寺田は首根っこ掴まれてるよ。悪いんだけど、そのデータ俺の携帯に送ってくれる」
と言いながら、カメラを連射している。
何がビンゴだったんだろう。僕には分からない。
その後も、ボスはせわしなく動いている。
「よし、こんなものでいいかな。真君、じゃあ、行ってみようか〜。いや〜。面白くなってきたね〜」
まだ、ぽかんとしている僕をよそに、ボスは屋上のドアへとスタスタ歩いていく。僕も慌てて続く。
これからどうなっていくんだろう・・・
8P
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