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> 松田探偵事務所 -困った面々- Stage3(7P)
松田探偵事務所
- 困った面々 -
Stage3
7P
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僕が尾行を始めてから、1週間。
残念なことに大きな動きはなかった。
ターゲットの大体のスケジュールは奥さんからもらっているけど、ターゲットがそのスケジュール通りに行動するとは限らない。僕はターゲットが会社から出てくるのを辛抱強く待っていた。
初日はあっという間だった。
今日は、僕が初日と言うことでボス・・・(探偵さんのことボスと言うのはいまだに恥ずかしい)
がどこかで見守ってくれて、随時指示をくれる体制。
ボスからの指示は渡された携帯電話にメールで来る。
僕は会社の出入り口が見える場所で、誰かと待ち合わせをしているフリをしている。本当は料金前払い制の喫茶店などがあると良いけど、ターゲットの会社の前にはそんないい場所はないので、携帯をいじっている感じを装いながらターゲットが出てくるのを待っている。僕は生まれて初めての尾行&女装での外出と言う二つの緊張で、気を失ってしまうほど、緊張している。
この日は運よく、出てくるのを待ってから1時間くらいで出てきた。
そこからが本番である。
僕はターゲットと10mくらいの距離を開けてずっと後をつけている。
尾行で一番ドキドキするのはターゲットが角を曲がったときである。
見失ってはいけないという思いで、つい走ってしまいそうになるけど、もし、ターゲットが角を曲がった先で立ち止まっている場合、怪しい印象を与えてしまう。そうならないように、ターゲットが角を曲がったときは、足音が出ないように駆け足にして、角付近でゆっくりに戻す。このときに大事なのは足音だって散々ボスに聞いた。
そんな調子でターゲットの後ろを、着かず離れずの距離を保ちながら、尾行する。初日は、ターゲットはどこにも夜ことなく、まっすぐに家へと帰ってくれたので、なんとか順調に終わった。本当は早く不倫現場を抑えて、尾行なんてやめたいんだけど、今はまだ心の準備もできていないから無理。正直ラッキーだった。
次の日以降は、午後に探偵事務所に行って、昨日のターゲットの様子をボスに報告。その後は、美麗ママさんや日和さんに手伝ってもらって、女装をさせてもらう。
美麗ママさんにやってもらうのは、なんとなく抵抗はないけれど、日和さんにやってもらうのは、やはりちょっと抵抗があった。若い女性だし、着替えやメイクをしてもらうってことは、距離もだいぶ近い。
でも、日和さんはそんなこと全然気にしていないようで、いつものような無表情な顔で淡々と作業をこなしていく。
ただ、日和さんで1つ気になるのは、日和さんが選ぶ洋服などは、普段パンツやすっきりした格好が多い、日和さんとはかけ離れ、少女趣味が入っている。
小花柄のシャツにヒラヒラのスカート、メイクの感じもピンクを主体とした可愛い色が多い気がする。変わらない表情の中で、もしかしたら日和さんも楽しんでいてくれるのかもしれないと思ったら、ちょっと気分が楽になった。
僕は毎日、年齢も職業もバラバラな女性になって、ターゲットの後ろをつけていく。ターゲットはこの1週間、接待や同僚とお酒を飲んだりすることはあったけど、女性関係の怪しい影はなかった。
ただヒヤッとすることはあった。その日は美麗ママさんが女装させてくれた。今まで大人しめの格好が多かったから、挑戦しようと言うことで、ひざ上タイトスカートに、かなりぴっちりしたトップス。胸なんてパットを何枚入れたんだろう。
美麗ママさんのイメージではクラブに行く若い子って感じらしい。僕はクラブに言ったことが無いので、このような子がいるのか知らないけど、とにかく派手だった。
そんな格好だったからかな、いつものように、ターゲットの会社が見られる場所で待ち合わせを装い、携帯をいじっていたらすぐに男に男の人に声をかけられた。あれはナンパだったのだろうか?
「ずっと、そこで立ってるよね?
待ち合わせって、彼氏?」
急に、茶髪のフリーターっぽい人が話しかけてきた。怖い。
「なんか、来なくない? そんな奴放っておいて、飲みにでも行かない?」
声を発っするとばれそうだし、目立ちたくないから早くいなくなって欲しい。ので、メールに夢中になっているフリ。
と言うか、ボスに助けてメールを送る。
無視をし続けているのに、男は図太いのか、ずっと話しかけてくる。
ボスからの返信も来ないし、どうしたら良いんだろうか。
声を発して男ってばれたら、彼はいなくなってくれるのかな?
でも、僕が女装している男なんてばれるのは恥ずかしい・・・
と悩んでいたら、痺れを切らした男が
「ほら、行こうよ」と言って、急に僕の手をとって引っ張って行く。
力が強くて逆らえない。
どうしよう。
もう、男だってばれてもいい!
と声を出そうとしたときに横から、手が伸びてきて
僕と男を引き剥がし、その人の後ろに僕を匿ってくれた。
「人の女に何してるんだ!」
ボスが一言、低い声で発した瞬間、男は一瞬にしていなくなった。
そして、注目を集めてしまった僕達は、張り込みを中断して、その日は引き下がることにした。
男の格好の時になんか、人に見向きもされなかった僕が、女装したら、火力興味を持たれるようになるなんて、不思議な感覚だ。
尾行に慣れてきて、緊張しっぱなしだった僕の気持ちがちょっと緩んできた、その日に変化はやってきた。
ターゲットである寺田さんは、今夜は飲みには行かないのか一人で会社から出てきて、最寄の駅へと向かった。不倫現場を押さえるターゲットだから呼び捨ての寺田でもいいのだろうが、なんとなく落ち着かなくて、ついさん付けにしてしまう。ボスにもたまに「ボスさん」と呼んでしまうので、笑われてしまう。
今日はまっすぐ家に帰る日なのだ。と高をくくっていたら、寺田さんは急に家がある駅で降りず、3つ先の駅で降りた。そして、メインストリートを抜けてどんどん歩いていく。
寺田さんがいつもと違う動きをしている。これはもしやと思うと、どんどん緊張が高まっていく。
繁華街を少し外れた、昔ながらに風情を漂わせる喫茶店に寺田さんは入っていった。僕もその後を少し時間を遅らせて、どこら辺の席に着いたのかを確認してから、店に入っていく。
店内は夕飯時のためか、思ったよりもすいていた。ちょうど寺田さんの背後から観察できる場所が空いていたので、席に着く。寺田さんは誰かと待ち合わせをしているか、手持ち無沙汰に携帯電話をいじっている。
僕もすぐにボスにメールを送る。
前に、もしどこかお店に入ったときに注文を言いたいけど、声を発したらばれてしまいそうで怖い。とボスに相談したところ、ばれないと思うけど、不安なら極力短い単語を発するようにしてればいいよとアドバイスをもらった。初めての実践でドキドキする。
7P
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