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> 松田探偵事務所 -困った面々- Stage2(5P)
松田探偵事務所
- 困った面々 -
Stage2
5P
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「じゃ、期間限定だけどうちの一員ってことでいいかな」
日和さんがそういって、僕に近づいてきて、右手差し出した。一瞬なんだか分からなかったけど、おずおずしながら握手した。
「日和さんはいつも、いいとこを持っていくな。」
と言って、所長さんも僕に右手を差し出す。
また力いっぱい握られるのかとビクビクしていたけど、所長さんの握手は驚くほど優しかった。
「じゃぁ、真君。申し訳ないけど、早速仕事に入ってもらっていいかな?」
「えっ! 今からですか?」
「昨日、あんなアクシデントがあったから、相手も警戒を強めるかも知れない。早めにカタを付けちまいたい」
「・・・わかりました」
「OK! 感謝するよ」
「あと、その『所長さん』っていうのやめてくれない。むず痒いんだわ」
「でも、日和さんは所長って呼んでますよね」
「日和ちゃんはいいの、言っても聞かない子だから。俺本当はボスって呼ばれるのが夢だったの。真君。『ボス』って読んでくれない?」
僕はボスなんて言葉テレビの中でしか聞いたことがないから、面食らっていた。でも、所長さんがずっと僕が呼ぶのを待っていて、その場が耐えられなくなっていた。
「ボス」
蚊の鳴くような小さな声。
「えっ?」
所長さんが聞き返してくる。ええい、ままよ。
「ボス」
自分なりに一番大きな声で言ってみた。所長さんはすごく喜んでくれて、満開の笑顔だった。これからはボスって呼ぶよう心がけよう。
ボスはご機嫌なままどこかに電話をかけ始めた。
「美麗ママ。昨日あった真君。手伝ってくれることになったんだ。ママの出番なんだよ。すぐにビルまで来てもらえるかな?」
どうやら、昨日の美麗さんに電話をかけているみたいだ。
それから、僕は尾行の仕方などのレクチャーを簡単に受けていた。どんくさい僕にはできないかも知れないけど、できることは精一杯しなくてはと思い、真剣に聞いていた。
「入るわよ〜。」
急にドアがガチャリと開いて、和服姿の綺麗な女の人が探偵事務所にすーと入ってきた。誰なんだろう〜?
「もう、ドアはいつもノックしてって行ってるじゃないですか!」
「日和ちゃん。そう怒んなくたっていいじゃないね〜。カルシウム足りないのかしら? 女のヒステリーほどかわいくないものはないのよ。
「はいはい、美麗ママには何を言っても無駄でした」
「まぁ、かわいくない。顔だけはいいのに損してるわね」
美麗さんだったのか、昨日と全然姿が違っていて分からなかった。
「優さん良かったわね〜。真ちゃんが協力してくれることになって〜」
「そうなんだよ。とりあえず今回の尾行の片がつくまで、期間限定だけどね」
「まぁ、そうなの。残念ね。でも、探偵を一回やってみればはまるかもよ。
ねぇ、真ちゃん」
といって、美麗さんが急に僕の方を振り返った。
その姿があんまりにも綺麗だったから、ボーとしてしまった。
「あら、真ちゃん、私に見とれてるの? 安心しなさい。
あなたも私が絶世の美女にしてあげるから。腕が鳴るわ〜」
ママさんが腕をポキポキ鳴らしてる。そういう意味ではないと思うんだけどな。。。
「さぁ、行くわよ」
と言うと、僕の腕を掴んでぐいぐいと引っ張っていく
「優さん、真ちゃん1時間ばかし借りるわよ。
「うん。美麗ママ頼んだよ。」
「誰に言ってるの! 任せておきなさいよ♪」
美麗さんのすごい力で引っ張られながら、階段を下り1つ下のフロアーへ行き、ある部屋に入った。
そこは衣裳部屋らしく、ものすごい数の服や靴、バックなどが並んでいる。
「真ちゃん。こっちこっち」
衣裳部屋の奥にもう1つドアがあり、その部屋に入った。そこは4畳ほどの小さなスペースながら、全身が見える鏡や、鏡台がある。
「ここが私の一番落ち着ける場所。真ちゃんだから特別に入れてあげるのよ」
「はい・・・ ありがとうございます」
「ここで私は男から女に代わるの。外界から孤立したここだけがサンクチュアリなのよ」
「はぁ」
「真ちゃんに言っても、わからないか。ごめんごめん。
さぁ、ここに座って、顔をちゃんと見せて」
僕はよくわからないまま、鏡台の椅子に座った。
「真ちゃん。ほんと肌がきれいよね。お手入れなんかなにかしてる?」
といいながら、美麗ママさんは僕の頬を触ってくる。
「いえ、何もしていませんが」
「若さなのかしら、羨ましいわね」
「はぁ」
「真ちゃんは優しい顔立ちだし、最初から飛ばした格好は辛いわよね。
今日は大人しめのやつにしましょうね」
この部屋に来るまでに通った横にあった衣装の数々を思い浮かべるが、
お店用のやつなのか、直視するのも恥ずかしいようなすごい洋服ばかりだったような気がする。
「真ちゃん、不安な顔しないの。ちゃんとおとなしめの洋服だってあるのよ」
というと、僕を置いて美麗さんは出て行った。
僕は美麗さんのサンクチチュアリに一人にされて、手持ち無沙汰に
部屋の中を見ていた。
美麗さんはなかなか帰ってこない。長年使ってきた化粧品や香水の匂いが部屋全体に漂っていて、そんな匂いに僕がなれているわけがなく、ずっとモジモジしていた。
5P
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