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松田探偵事務所
- 困った面々 -
Stage1
2P
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ソフトクリームが付いたままのスーツ姿で横浜の街を歩いている彼には街の人の視線が集まる。
(結構な範囲で広がっていたもんな。どうしたらいいんだろう・・・
相手はやくざだし、どうしよう。)
そんなことを考えながら、歩いていたら5分くらいで、古ぼけた築20年は超えているだろうと思われる雑居ビルの中に彼は入っていく。
「ヤクザの事務所ってこんなところなのかな?」
ヤクざさんは、もう古くなってミシミシ音がなる急な階段をなれた足つきで、どんどん上へと登っていく。
そして、最上階である4階で止まる。そこにはドアがひとつしかなくて、
「松田探偵事務所」と書かれたプレートがかかっている。

(探偵なのかな? それとも探偵事務所は仮の姿で本当はヤクザだったり?)

彼はドアをノックもしないで、ガチャリと入る。そこでやっと僕の手を離してくれた。強く握られていたのか、僕の手首には彼の手形がうすく野赤く残っている。

「おい、何ぼーとしてんだ、ぼうず」
彼は僕を置いてどんどん部屋の中を進む。
「日和ちゃん。コレ落ちるかな〜?」
「もう、所長なにやってるんですか!」
「尾行してたら、急にこのぼうずが当たってきて、この有様よ。」
「あ〜あ、これってソフトクリームですよね。クリーニングに出してもどうかと思いますよ。」
「えっ! マジでコレ結構気に入っていたのにな。」

彼は部屋のいた女性と会話を始めてしまった。どうやら彼女は日和さんと言う名前らしい。あとは黒い革張りの応接セットと、所長室って書かれたプレートがかかっているドアと、その奥にドアがもうひとつある。
僕は所在な下げに入り口のところに立っている。

「で、尾行のほうはどうなったんですか?」
「ダメだよ。相手に顔バッチリ見られちゃった」
「えっ! 尾行の相手に顔見られてどうするんですか!」
日和さんは完璧に呆れ顔になっている。
この人メガネをかけていて、おとなしい感じだけど、しゃべると結構きついな。
「だって、急にこのぼうずがぶつかってきて、倒れちゃうから大事になっちゃったんだよ。この仕事もうダメかもね」
「困りますよ。今、仕事コレしかないんですから。この仕事ちゃんとやらないとここの事務所の家賃だって払えませんよ」
「ええ、だって、顔見られちゃったし、もう尾行はできないよ」
「どうするか、対策はご自分で考え出てください」
「日和ちゃん冷たい」
所長さんは大げさに、よろめいてソファに体を投げ出して、「よよよ」と泣く真似までしてくれている。

「あら、お客様。ごめんなさい。こちらのソファにどうぞ。」
そこで、日和さんは初めて僕の存在に気がついてくれて、とても綺麗な笑顔を僕に向けてくれた。
「あっ、どうも」
僕はとりあえず、ソファに座る。
「おい、そいつは客じゃねぇぞ。アイスをぶっ掛けてくれた本人」
「あ〜。キミが:」
日和さんから愛想笑いが消えて冷ややかな目で見られた。

「ハイ、そうなんです。ごめんなさい。・・・やっぱ、それ落ちませんかね?」
「難しいかもしれないわね」
「どうしたら、いいんでしょう。弁償したい気持ちはあるのですが、今、失業しているんで、そんなにお金がないんです。ごめんなさい。1ヶ月前に急にリストラにあって、それから一生懸命仕事を探しているんですが、なかなか見つからなくて、蓄えもどんどん減ってきてますし」
今までの不安が一気に溢れてきてしまい。今までの境遇や、今日の試験での失敗などを早口で話していた。
「とても高そうなスーツなのですぐにとは行きませんが、働き先が見つかったらちゃんと払いますので」

「おい、ぼうず。一人で突っ走るな。ちょっと落ち着け、なぁ」
「・・・ハイ」
「所長その前にスーツをクリーニングに出しちゃいますから、脱いでください。」
「日和ちゃんのエッチ!」
「所長〜」
「ごめんて。でも着替え全部洗っちゃったから、パンツ一枚になっちゃうけどいい?」
「夏なんていつもそんなんじゃないですか。どうぞご勝手に」
「じゃぁ、坊主ちょっと待っててな」
って言うと、所長さんは僕の前でソフトクリーム付いたスーツを無造作に脱いでしまった。そしてトランクス一枚の姿になって、僕の向かいのソファに座った。スーツは日和さんに渡って、しみの現状を細かくチェックしている。

「ぼうず、お前の状況は大体分かった。でも、お互いを知るにはあんな風に焦っていたら、無理だ。落ち着いて一からはじめようや」
「はい」
「じゃあ、自己紹介をな。まずは俺から」
「俺は松田 優。ここで探偵事務所をやっている。名前の通り、俺は大の優作ファンだからね。そこ忘れちゃダメだよ。」
「松田優作の話振っちゃダメよ。長いから」
「日和ちゃんは黙ってて。さて、従業員は俺とこの日和チャンだけのこじんまりしたものだけどな。さっきは浮気調査の尾行中だったってわけだ。まぁ、まんまと顔を見られてまかれちまったけどな。」
「ごめんなさい。僕のせいで」
「そんなことはいいから、はい、今度ぼうずが自己紹介。」
「ハイ。僕は山田 真。と言います。」
所長の肩がピクンと跳ねた気がした。僕の名前になにかあるのかな。
「今年で24歳になります。先月末まで勤めていた印刷工場をリストラにあい、ただいま就職活動中です」
「ふ~。大変だったな。さっきはあまりにも早口すぎて何を言ってるかわからなかったぞ」
「ごめんなさい。ずっと緊張していたから」
「はいはい。で、なんでリストラになんかあったんだ? ミスでもしたのか?」
「ミスはしていないと思います。僕はまだ若いから他があるって」
「結構むちゃくちゃな理由だな」
「はい、でも、僕もダメなんだと思います。人とあまりうまく話せないし、面接とかも苦手なので、落ちてばっかりで、今日も面接がダメでぼ〜としていたら、所長さんにぶつかってしまって本当に申し訳ないです」
僕は、ソファから立ち上がって、頭をめいっぱい下げた。

「う〜ん。」
所長さんはうなったまま、ソファから立ち上がって僕の周りをウロウロし始めた。パンツ一枚のおじさんにじろじろ観察するように見られて居心地が悪い。
「う〜ん」
「所長さん。どうしたんですか?」
「う〜ん。どうかな〜?」
「どうしたんですか?」
所長さんは僕のことをジーと見るのをなかなかやめてくれない。

「あのスーツとっても高かったんだ。イタリアものだから30万円ぐらいするんだ」
(30万円ですか? どうしようそんなお金ないよ・・・)
「クリーニングには出すけど、落ちなかったらどうしようかね?」
「どうしたらよいのでしょうか?」
「30万円払ってもらえる?」
「ごめんなさい。今すぐは無理です」
「困ったな〜」
困ったな〜は僕のです。どうしたらいいんだろう。
「真くんさ〜。今失業中でヒマだよね。探偵の仕事手伝ってみる気ない?」
「所長、何言ってるんですか?」
話を聞いていない風だった日和さんもツイ口を挟んでしまった。
「日和ちゃんは黙ってて」
「でも、急に探偵なんて、資料と荷は無理ですよ」
「いいの。いいの。」
また勝手に2人で話が進んでしまう。ちょっと待ってください。
「あの、所長さん。ご冗談ですよね? お金は大変申し訳ないのですが、働く先がきまるまで、少しの間待っていただけませんか?」
「コレが待てなんだよね。お気に入りのスーツだし。真くん、探偵やるの?それても30万今すぐ払うのどっちがいい?」
どっちって言われても選べるわけないじゃないですか。僕はどうしたらよいのだろう。
2P
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