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恋じゃなくなった日
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今日、僕は告白をする。
相手は同じ職場で3つ年上の間宮 敦子さん。
敦子さんと親しくなったのはコピー機がキッカケだ。

僕は新卒入社1年生で、日々先輩からの指示されることをやるだけで目いっぱいの日々だった。僕がグズなせいか、毎日ミスばかりして先輩から怒られてばかりいた。

その日も先輩から会議で使う資料のコピーを頼まれて、コピー室にこもっていた。会議時間が迫っていたので、焦って操作を誤ってしまったのか、紙が詰まってしまって動かない。コピー機の示すとおりにいろいろなところを開けたり閉めたりしても、紙は見つからない。
 コピー室は部署と離れていて、周りにも知っている人もいないし、どうしよう?
 と頭を抱え込んで悩んでいたら、頭上から優しい声がした。
「どうしたの? 紙詰まっちゃった?」
「ハイ」
「どれどれ」
髪の長い、切れ長の目をした綺麗な女性が声をかけてくれた。それが敦子さんだ。
コピー機は敦子さんの手から魔法でも出ていたのか、すぐに直って、会議に間に合うように資料の準備はできた。

それからは、会社ですれ違うたびに軽く会釈をする仲になって、給湯室で会ったら会話をしてなど、だんだん仲良くなってきた。ランチも敦子さんから誘ってもらって、何度も行った。会話をするたびに、敦子さんの落ち着いた雰囲気。僕を包み込んでくれるような優しさに僕はどんどん惹かれていった。でも、その気持ちが大きくなるほど、敦子さんは3歳も下で、部署も違う僕なんになぜ優しく声をかけてくれるんだろうと、悩みもした。どうしたらよいのか分からなくなっていた。

そんなある日、コピー室にいたら、敦子さんもコピーを取りに来た。僕は一番最初に出会った場所で、また二人っきりになったのは、神様が僕を応援してくれるんだと考えて、渾身の勇気を振り絞って、敦子さんをデートに誘った。
敦子さんは俯いて、少し悩んだ後、「いいわよ」と言ってくれた。僕は本当に本当に嬉しかった。

デートは今週の土曜日。場所は敦子さんからの希望で上野動物公園。敦子さんのイメージだと上野の森美術館や国立西洋美術館のほうが合っていたので、ちょっとびっくりだった。
動物公園では敦子さんは1つ1つの動物をゆっくり見て行った。僕は青森から大学受験で出てきているので、東京には4年程いるが、上野動物公園に来るのは初めてだった。
敦子さんは昔、家族で来たことがあるようで、ところどころ長く立ち止まっては懐かしんでいるようだ。「猿山で猿同士がケンカしてて、やめて〜って叫んだりしたな〜」「パンダが全然起きてなくて、白と黒のはずが汚れてて、灰色と黒だったのよ」など、いろいろな話をしてくれた。敦子さんはいつもよりちょっとはしゃいでいるようで、笑顔がとても素敵だった。

上野動物公園をゆっくり見た後は、雑誌などで散々調べた、僕の払える範囲で一番よさそうなフランス料理に敦子さんを招待した。予約の電話から緊張していたけど、店内も豪華で場違いなところにきてしまったようで、おぼつかなかった。メニューもなかなか決めれない僕を敦子さんは優しくリードしてくれた。男として情けないけど、敦子さんにはつい甘えてしまう。なんで、敦子さんは僕なんかに優しくしてくれるんだろう? ダメダメ、そんなこと考えちゃダメだ。今日、僕は人生で最大の勇気を振り絞るんだ。

 この後のことを考えて、僕は緊張してしまってあまり話せなかったが、敦子さんが気を使ってくれたのか、この頃見た映画の話や、好きな作家さんはいるのなど?
 話題を振ってくれたので、楽しい時間をすごすことができた。
 お店を出たのは9時少し前、僕は敦子さんにお願いして、もう一箇所付き合ってもらった。そこは東京タワーだ。
 東京タワーは僕の思い出の場所だ。青森から出てきて、見知らぬ人ばかりの街、周りのスピードについていけなくて、孤独感で潰されそうになるたびに、東京タワーの展望室に来ては、はるか遠くを見渡した。ゆったりした時間をすごし、自分を取り戻していた。初めての告白は、ここでするんだって、ずっと前から決めていた。

 夜の展望室はカップル達で溢れている。各自が自分たちの世界を作っているので、恥ずかしくないと自分に言い聞かせた。僕は敦子さんの腕を掴んで、僕がいつも眺めている、青森向きのガラスの前まで連れて行って、一呼吸ついた。敦子さんは、急な僕の行動にちょっとびっくりした顔をしていた。

「あの、敦子さん。僕の話を聞いてくれませんか?」
「どうしたの改まって」

僕は緊張で、口から心臓が飛び出してきそうだった。でも、ココで言わなかったら一生後悔すると思って、一気に言った。

「僕はあなたよりも3歳も年下ですし、頼りがいもないと思います。あなたは綺麗だし、落ち着いていて大人の女性です。ものすごく悩みました。何度も何度も考えました。でもやっぱり無理です。諦め切れません。僕はあなたのことが好きです。」

敦子さんは、最初はとてもびっくりした顔をしたけど、その後、少し暗い顔になった。敦子さんは何もしゃべってくれない。僕の告白は無残に失敗したんだ。。。
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