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12.女装とは何か?
(女装雑誌に掲載された文章です)

大辞泉で「女装」を調べると「男が女の姿をする事」と、簡単な説明が記載されています。女装にまったく興味のない方や、女装に対し何も接点のない方に質問をしても、同じような答えが返ってくることでしょう。確かに女装とは男性が女性に変身する行為です。近年、女装に対する社会の考え方は大きく変化しました。バラエティー番組でも女装を取り上げたテーマを取り入れることが多くなりましたし、同時に女装を楽しまれる方も増えました。この変化はインターネットの普及がもたらしたものだと思います。1990年代後半から女装世界に新たな舞台が用意されたといえましょう。

私は女装専門店【アルテミス】で毎日多くの女装子さんの変身のお手伝いを続ける中で、女装とは何かを追及しています。私が考える女装とは、「男性が気軽に楽しめる趣味の一つ」としての女装です。同じ人間がこの世にいないように、女装をする目的も女装子さんによってさまざまです。簡素な男性服に換えて女性の華やかなお衣装を楽しむ、つまりファッションの一つとして女装をされる方。女性服はデザインが豊富ですし色鮮やかで、しかも季節ごとに変化しますから飽きることなく楽しむことができます。女性に興味があるから女装をしているという方もいらっしゃいますし、好きなアニメの女性キャラクターへの変身や、昨今男性に人気があるメイド服を着て、その女性になりきる行為(疑似体験)をする楽しみ方もあります。ファッションとして女装を楽しむのでしたら、服の数だけ面白さがあるといえます。まさに美の宝庫です。

それでは、女装を始めることになったきっかけはどうでしょうか?女装は秘密の遊びですから、理由無し・きっかけ無しにリスクのある行為をすることはまず無いと思います。女装子さん方にお話を伺うと、「学園祭で女装をさせたれた事」「子供の頃、お姉さんのお下がりを着せられていた事」「亡き妻を思い…」等、そこには常に女性の存在があるように思います。いつかどこかで出逢った女性の面影、ふとした時に思い出す記憶や情景。女装をするとその想い出が鮮明によみがえります。ここまでの人生において交差した女性や、強く異性を意識させられるような何かしらの事件が女装を始めるきっかけとなっているようです。もしこの世に男性しか存在ないとすれば、女装は存在しません。必ずそこには女性の存在があります。多くの女装子さんはご自身の理想とする女性に変身することをご希望されます。そうしてみると理想とする女性のシンボルとは何か、それこそが「女装とは何か」のキーワードになるように思えます。

かつて人類は狩猟を日々の生業とする男性中心の生活を営んでいました。近代社会となり女性の社会進出が謳われるようになったとしても、やはり男性は仕事・女性は家事の形は人間社会の中で継続されていく形でしょう。時代劇「子連れ狼」に「夫は我武者羅に戦い、妻はひたすら愛した」という台詞があります。イタリアでは婚約者や新婚カップルが共に生活を始めた家を「愛の巣」と呼びます。男性にとって女性のいる空間は戦いに疲れた体を休める安らぎの空間であり、愛に満ち溢れた場所なのかもしれません。女装をなさる皆さんはその時に母親の面影があることに気がつきませんか?血がつながっている事を強く感じる瞬間でしょう。母親はどちらかというと娘よりも息子に愛情を多く注ぎがちなのだそうです。母がいて愛があり、暖かい空間がある。そして大人になって誰かを愛し、愛するもののために男性は戦います。

男性にとって女性とは「愛」そのものなのかもしれません。愛とは創造であり、幸福であり、美しさでもあります。女装の真髄とは何かの答えそれは愛、つまり「心」なのでしょう。女装をするということは、限りなく身近に女性(愛情・安らぎ・性・喜び等…)を感じるということです。女装は外見だけで語る事の出来る簡単なものではありません。そこには人類が誕生してから脈々と受け継がれている生命の流れが含まれているのです。