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6.その先の女装

最近ようやく外部の仕事依頼(TV関係とかいろいろと…)が落ち着き、アルテミスに集中することが出来る時間が増えました。ここ3年ほどアルテミス以外にも女装関係の様々なスケジュールに追われていたので一段落をした今、心が透明になったような気分です。久々に故郷に戻ってきたような懐かしい感覚です。
私にとって人生をかけて取り組みたい課題【女装とは何か?】についてじっくり考える時間が増えました。アルテミスにご来店になるゲスト様お一人お一人に合わせた楽しみ方を一緒に考えることや、女装について深く研究することが私にとって一番の楽しみですので、以前のようにそのことに集中できるようになったことを嬉しく思います。

その様な日々の中でゲスト様とのお話やメールを通じて(メールは余りに数が多い為タイミングよくキチンとご返事を差し上げられない、ということが悩みの種なのですが…それは別の機会に考えることとして)気付かされることの中に、以前には無かった新しい変化に気づきました。その変化を端的に言えば、女装が急激に社会に浸透したということです。
例えば…昨今のテレビ番組の女装に対する考え方・見せ方の変化が挙げられます。女装を取り上げてくださる番組が増えましたし、番組の内容も「芸能人当てクイズ」のように肩のこらない娯楽モノが好まれるようになってきたと思います。私がここ数年関ってきた女装関係の番組の多くが「本人と分からない状態の美女にする」という内容ばかりでした。番組のお手伝いでお会いしたお笑い芸人さん達に伺うと、自分だとばれないような女装は今回が初めてとのお返事や、最近こういった仕事内容が多くなってきたとお話される方もいらっしゃいました。
確かに、以前は女装を用いた役と言えば「本人とばれてあたりまえ」が多かった(勿論、今でもそのような役はありますが)のですが、ここ最近は「本人とばれないように」にシフトチェンジした内容も多くなったと感じます。
テレビの効果で街中や電車の中でも【廻りは女装者に気付かない、変だとは思わないというある種の馴れ】が社会に浸透しつつあるように思います。何処から見ても女性に見える(男性だとばれない)状態で、更に性別の異なる別の人間になることは、私が目指してきた女装の眼目の一つ【街に溶け込む女装】に重なります。テレビや雑誌の女装のお手伝いすることで、少しずつ女装が自然な形で社会に浸透していく姿を感じるのは大変嬉しいことです。 しかしここで嬉しいとばかり言っていられない【その先に何があるのか】との疑問が生じました。
以下少し長くなりますが【その先に何があるのか】について、私なりの経験もご紹介しながらお話してみたいと思います。

私がまだ美術大学に通う学生だった頃、女装といえばいかにも女装だと分かる化粧で女性服を着た男性の姿。アンダーグラウンドで特殊な行為と思われがちでした。私はその偏った一般概念に疑問を持ちました。「表現方法によっては男性でも、限りなく女性に近い姿に変身できるのではないだろうか?」「日々、ストレスを抱えて仕事に接する男性のオアシスとして女装は役に立つのではないか?」「女装に興味はありつつも、女装をしたことが無い男性は想像以上に多いのではないのだろうか?」「女装がやりにくい環境状態なのではないか?」と真剣に考えました。それを解決する為には【街に溶け込む女装】を追及することで答えが見つかると思いました。
第3者の目を常に意識しなければならない女装外出は乗り越えねばならない試練への挑戦であり、問題解決への近道でもあります。そのように考えてアルテミスではオープン当初より「女装外出サービス」を設定して広く皆様にお奨めしてきました。女装をして外出ができるなんて夢のまた夢とお考えになるゲスト様でも、アルテミスでお化粧方法や、外出に適した服装のセレクト、品のある女性らしい仕草などをご経験されます。更にご自身でも努力をされ、多くのゲスト様達が今ではお一人でも女装外出が楽しめるようにレベルアップされたことは、私にとって何よりも嬉しいことです。
女装がこれだけ社会に受け入れられるようになった要因には、メディアの対応やインターネット環境の普及等に後押しされて、ゲスト様方が積極的に女装を楽しむ姿勢に変わったことの功績が第一にあると思います。その様な変革にアルテミスが多少の貢献をしてきたとの自負も有りますが、何よりも自分が若い頃に抱いた志の幾ばくかが実現していると言うことに感動すらおぼえております。

私がこの世界に入った10年前と比べたら女装は随分やりやすくなりました。当時は女装に関する情報を知るツールも少なく、また女性用品を購入するにも戸惑いや抵抗があったように思います。今ではインターネットで検索をすればすぐに情報を得ることができます。最近では女装に必要なやや特殊な商品も販売されていますし、アパレルのオンラインショップでもサイズが大きい商品数が多くなりました。情報も得やすく、且つ道具も揃いやすいとなれば、男性生活時の条件(お一人暮らしや、奥様が旅行中や、出張など)さえ整えば自由に女装が楽しめるようになります。
楽しみやすい環境が整えば、女装人口は今後ますます増えるのは確実です。女装外出をされる方も今以上に増え、経験談をご自身のHPで発信する方も増えるとなれば、女装をされない一般の方も、女装と関る機会が増え敏感になります。そうなれば、女装外出時に男性的な仕草が含まれていたり、服装が年齢相応でなかったり…、ちょっとした詰めの甘さで男性だとばれる確率が今まで以上に高くなるかもしれません。女装が社会に浸透すればするほど、身近になればなるほど、ハードルは高くなるのです。
最近のゲスト様とのお話で「家族に自分は女装が好きであることを話し、それを理解してもらいたい」とのご相談や、仲の良い女性友達(相手が女装者と分かった上でのお友達関係)とショッピングや食事をされたとのお話も伺います。これまで私は女装は秘密の趣味と考えていました。それで先ほど男性生活時の条件と言うことに触れましたがしかし、今後女装人口が増え良い形で社会に溶け込み、女装が一般的になれば、女装はいずれ【秘密】ではなくなってしまいます。つまり、女装が【生活の一部】になるのです。ライフスタイルの中の女装。例えば、昼間会社で務めるときは男性で、プライベートな部分では女装をして女性として過ごす。このような楽しみ方をされる女装者が今後ますます増えていくでしょう。

私は今、このような見方の中から『その先の女装』が見えてきたと確信しております。
私はアルテミスを通じて経験をした6年間を再確認した上で、【女装と社会の共存】をテーマに次なる女装を求めようと思います。女装は進化しました。進化した女装を扱うのであれば、アルテミスも成長しなければなりません。3月20日はアルテミスの誕生日です。この記念月に新しい一歩を踏み出そうと思います。アルテミスは私とスタッフと、ご利用下さる多くのゲスト様皆で作ってまいりました。今までゲスト様から頂いた多くのご要望や、スタッフのアイデアを集約して新しいサービスを追加することに致しました。今後はゲスト様のライフスタイルに合わせた女装も提案していきたいと考えます。

女装はアンダーグラウンドで特殊な行為と思われていた場所から脱却しつつあります。ようやく芽吹き始めた状態です。この芽が成長し実り、次の世代に良い種を残せるかどうかが重要なのです。女装は今後どのような進化を辿るのでしょうか。私はその先の女装を追及することで、【女装の真髄】に迫ろうと思います。私なりに導き出した考え方に賛同してくださる方が一人でも多く現れて下さることを願いつつ…
2009年3月6日