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30.joso-style

絵画といえば、明治初期にヨーロッパからもたらされた油彩絵や、日々の生活に密着したデザイン画を連想することが多いのではないでしょうか。油彩画やデザイン画は世界的にもメジャーな技巧ですが、日本を代表するものとしては「日本画」の技巧が挙げられます。日本画とは主に日本の風景や四季、美人画、動植物を描いた日本独特の絵画です。日本画は和紙に墨で線を描き、岩絵具(いわえのぐ:岩を砕いた細かい粉)を膠(にかわ:動物の皮膚や骨からつくられた接着剤)を用いて定着させて描きます。簡単に言えば「粉絵」です。光沢のある絵の具を用いた油彩画や、鮮やかな色合いのデザイン画と異なり、粉絵の日本画は一見すると地味でパワー負けをしているように感じます。ですが日本画をよく見ると、大変繊細に描かれていることが分かります。岩絵具を何重にも塗り重ねたにも拘わらず維持されている透明感。一切の無駄を省いた簡略化された線の美しさ。細密描写なのになぜかシンプルで平面的に見える不思議な絵画。日本画の技巧をじっくり観察すると日本文化の奥深さを感じざるを得ません。

私は多摩美術大学で日本画を専攻していたこともあり、私の表現する女装(特に女装外出)にはその影響が強く表れていると思います。プロデユースした女装の完成度が高いか否かは女装外出をするとすぐに分かります。化粧でも衣装でも、必要以上に派手で鮮やかな女装スタイルでは街中で大変目立ちます。目立つだけならいいのですが、男性だと気が付かれては失敗です。服装は流行や年齢、TOPを考慮しなければ目立ちますし、お化粧も完成度が高くなければ男性だとバレます。勿論、モデルとなる女装子さんの仕草や言葉使いが女性的かどうかも重要ですから、その為のアドバイスは欠かせません。モデルの男性がもし女性として生を受けて、女性として今まで生きてきたらこんな姿だろうな…と、考えながらプロデユースします。「一見すると地味」でも「上品な大人の女性」。それが私の演出する女装外出のスタイルです。

女性の美しさの様式は世界各国でその見せ方が異なります。ヨーロッパのスタイルは油彩画のように体のラインを強調したエレガントな形状。アメリカのスタイルでしたら、ミニスカートやカラフル色使い。まるでデザイン画のようです。それでは、日本のスタイルはどうでしょうか?絵画の世界では日本女性の美人像もある程度、形式として決まっていました。古の時代から江戸時代頃まで日本の美人像は大和絵や浮世絵、日本画等で描かれたように黒髪におちょぼ口で柳のようなしなやかな体の和服姿です。月並みな例えですが、歌舞伎の女形は美人の代表格です。和装は日本人の寸胴なボディーラインを最も効率的に美しく表現した衣装です。ですが、和装姿で生活をしている女性は今では少数派になりました。開港をして海外の文化を多く取り入れ始めた幕末の頃から、インターネットが普及し世界中の情報が連日行きかう現代に至るまで日本では一般的な女性服と言えば洋服です。ボディーラインを強調した洋服も、細身の女性が着れば欧米人のように着こなすことも出来るはずです。ですが、女性のようなウエストのクビレのない男性となるとそう簡単にはいきません。メタボのポッコリおなかとなると、なおさら難題です。ですが、クビレの無い男性ボディーでも、日本人がそもそも寸胴であることを視点にいれてそれを長所として表現すれば問題は解決できます。身長・体重・顔の大きさのバランスを考慮しつつ、引き締め効果のある補正下着と膨らみを作るバストパッドやヒップパッドを用いて、気持ちふくよかな日本人女性の体型を作ります。私が演出する女装ボディーラインは、極端な欧米型ではなく凹凸がありつつも控えめな日本型です(体全体を細くするのであれば、ぜひダイエットを心がけてください。健康維持にもなりますし、ワンサイズダウンをすれば選べる女性服の幅も広がります)。そういった点から考えると、日本人の体形は女装に適しているといえるのかもしれません。

近年では日本画も油彩画やデザイン画の影響を受けて、厚く塗り重ねた表現や抽象的な描写、伝統にとらわれず、各分野の良い部分を組み合わせた新しいスタイルの作品が多くなりました。女性の美しさはマリリンモンローのようなメリハリボディーや、クレオパトラのような濃厚な化粧だけではありません。今まで女装と言えば、そういったイメージも強くありましたが、最近の女装は衣装でも化粧でも流行を上手に取り入れた「ナチュラルな女装」も多くなりつつあります。平凡で自然で、それでいて美しい。日本の美意識の一つ、「ワビとサビ」が表現された質素で静かな女装様式(私はこれをjoso-styleと呼んでいます)は日本女装の様式の一つと思います。

余談になりますが、日本画は専門に扱う学校や大学などで教えることはあっても、高等学校までの美術教育では教えることはまずありません。その為、日本人でも日本画を知らない方は多いようです。日本画を見たことの無い方はぜひ、美術館で本物の日本画をご覧下さい。
2009年7月1日